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合格点は何点ですか?

合格点は何点ですか?

書道教室といえば、先生がお手本を書いて、それをながら、書いた後、先生に見てもらって、指導を受ける。といったことをみなさん想像するのではないでしょうか。先生が合格出したら、次の課題に行ける。と言ったように、進めていく教室も多いと思います。

僕は、そこも含めて、自分主体で取り組めたらいいなと思っています。まず、何を書くか、自分で臨書の課題を選びます。その中のどの文字を書きたいか、自分で決めます。別に一字目から書いていく必要はありませんし、続けて書く必要もありません。だって、自分の形成のためにしている活動ですから。そして、自分がいいと思ったら合格です。次の字に行きましょう。

テストでも、100点満点という言葉がありますが、臨書で言う100点とは、古典のその文字の要素が全てそのまま表現できるということです。(中国の大学では、分度器で角度を測ってくる先生もいるということを聞いたことがあります。)もし、100点をとらないと合格できないと思ったら、大変な時間がかかるでしょう。もちろんその時間をかけることがとても有意義であるのですが。

『始平公造像記』の一字目の「始」

今日は、「女」の部分の3本の線に囲まれた細長い三角の部分に注目してみました。中の三角をこの形にするのに、けっこう時間がかかりました。

もしも、100点を目指すならば、こういう細かいところも、再現していかなければなりません。でも、その白い部分の形まで再現しなくてもいいという人、そんな細かいところはこだわらないという人、言われるまで気がつかなかったという人、臨書の作品の中では、ある程度表現を変えているという人、などなど、いろんな人がいるかもしれません。そもそも全く同じ形を目指していないという人もいるでしょう。そういう意味で、皆が100点を目指す必要はないと思います。答えが原本(昔の資料)であることを前提とした場合、そのパーセンテージはある程度見当がつくでしょう。もちろん、100%再現できれば、もちろんすごいことです。

でも、それを強要してしまうことで、自分のペースが崩されてしまう人もいるのではないでしょうか。書道に「苦」は必要ないと思っています。自分が書きたいものを書いていけばいいのです。80点で次の字に行く人もいれば、50点・30点・10点の人もいるかもしれません。それは先生が決めることではなく、自分で決めることのはずです。

「えっ、そんなんでいいの」と思う人もいるかもしれません。もちろんそれでいいんです。自分で判断するというのも必要なことです。

考え方を少し変えてみます。 

よく考えてください。100点達成するのに、2時間かかったとします。その間に、10点で合格と判断してどんどん次の字に進んでいる人は2時間で20字くらい合格しているかもしれません。なんと、点数にして200点です。面白いですよね。総合得点はどちらの方が多いですか?もちろん点数で誰が先を行っているか競うわけではないので、意味のない数字なのかもしれません。ここで伝えたいことは、本当に自由でいいと思って取り組むことが大切だということです。

さて、こういうふうに言うと、一人でできる。家で一人ですればいいということになります。本当はそれでいいと思うのです。出来る人はどんどんやってみてください。きっと充実した時間が待っています。

では、先生は何をするのか、僕が考える先生とは、その人が、どこに気を付けて書いたのか、どんなちょっとした発見があったのか、そういうことを聞いてあげる人だと思います。その中には、ここがどうしてもできないといった気づきもあるでしょう。本人が気づいて、努力した後であれば、こちらの考えを述べることも悪くないと思います。それは、あくまでも自分の考えを伝えるということになるでしょう。先生が正しいと思っても、それを強要することはできないと思います。どうしてかというと、そのことに考えている人は、なにか別の答えを見つけられるかもしれないのです。自分で導き出した答え、これが一番大事なのです。

先生は、説明したいと思ってしまいます。でも僕が理想だと思う状態は、先生ははじめに説明をしない。本人がそこまでたどり着いたら、そのことについてお互いに話をしたり、一緒に書いてみたりするとう古典と自分の関係を作り上げていく環境だと思います。

人は、相手が知らないことを話すとき、ちょっと気分がよくなるものです。相手が知らないというだけでちょっと優位な気分を味わうことができます。書道では、している年数が違えば、知っていることが多いのは当たり前です。それを少し我慢して、その人が今気づいていること、発見したことについて話していけば、指導者側にも新たな発見が待っているはずです。

補助輪なしで、自分で歩んでいくことができるといいですね。

この記事の著者

荒金 治

1974年3月18日生まれ。父である書家荒金大琳に師事。大分県別府市出身。別府大学を卒業後、中国北京に留学する。北京語言学院で中国語を学び、北京大学での本科(学部)・修士課程を経て、北京師範大学で博士号を取得。これまでに、別府大学、別府市立別府商業高等学校、北京語言大学で教鞭をとった経験があります。書道について思考してきたことを、言葉にしていきたいです。

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